RSウイルス、変わる予防…ワクチン・予防薬が相次ぎ承認、後続も開発活発 | AnswersNews

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RSウイルス感染症に新たな予防手段が相次いで登場しています。今年1月、グラクソ・スミスクラインが国内初のワクチン「アレックスビー」を発売し、ファイザーのワクチン「アブリスボ」も同月に承認。3月には乳幼児向けの新たな予防薬「ベイフォータス」も承認されました。後続のパイプラインも開発が活発です。

2つのワクチンが承認

RSウイルスは呼吸器症状を引き起こす感染性のウイルスで、ほとんどの人が2歳までに1度は感染すると言われます。咳や鼻水・鼻づまりといった風邪のような上気道の症状にとどまることもあれば、気管支炎や肺炎など下気道疾患を起こすこともあり、乳幼児や高齢者、基礎疾患を持つ人は重症化リスクが高いことが知られています。発症した場合の治療は対症療法が中心で、RSウイルス感染症そのもの対する治療薬はありません。これまでは、重症化リスクの高い乳幼児の重篤な下気道疾患の発症を抑制する「シナジス」(一般名・パリビズマブ)が承認されているのみでした。

こうした中、今年1月、グラクソ・スミスクライン(GSK)のRSウイルスワクチン「アレックスビー筋注用」が60歳以上の成人に対する国内初のRSウイルスワクチンとして発売。同じ月にはファイザーの「アブリスボ筋注」が母子免疫ワクチンとして承認を取得し、3月には60歳以上向けでも承認を取得しました。

RSウイルスワクチンの研究開発は60年以上前に始まりましたが、1960年代に開発された初期の不活化ワクチンは有害事象によって開発中止に追い込まれました。その後、地道な基礎研究によってウイルスのタンパク構造の解明が進み、2010年代に入って融合前Fタンパク質をベースとするワクチンの有望性が示唆。そこから10年あまりの年月を経て2つのワクチンが実用化にこぎ着けました。

先行の海外、高齢者で接種広がる

アレックスビーは23年5月初旬に米国で世界初のRSウイルスワクチンとして高齢成人を対象に承認を取得。アブリスボも同月末に米国で高齢者向けに承認されました。両ワクチンともその後、欧州などに展開を広げ、アブリスボは同年8月に米国と欧州で母子免疫の適応でも承認を取得しました。

両社の決算発表によると、わずかに先行したアレックスビーは23年12月末までに世界で15億4000万ドル(約2380億円)を販売し、アブリスボは8億9000万ドル(約1370億円)を売り上げました。母子免疫の適応を持つアブリスボを含めて高齢者を中心に接種が広がっており、検査報告体制の充実とそれに基づく疫学情報の集積が後押ししています。

RSウイルス感染症はこれまで、日本では小児の疾患と認識されてきました。GSKが60歳以上の男女約6500人を対象に国内で行った調査では、RSウイルス感染症の認知度は6割程度ある一方、大人も感染することを認識している人は3割を下回りました。実際には60歳以上の入院は年間約6万3000人、院内死亡は年間約4500人に上ると推定されており、影響は小さくありません。高齢者には複数の基礎疾患を抱える人も多いため、重症化のリスクは高く、感染が慢性閉塞性肺疾患(COPD)やうっ血性心不全といった持病を悪化させるとの報告もあります。こうした高齢者のRSウイルス感染症をめぐる状況を変えるものとして、ワクチンには専門医などから高い期待が寄せられています。

予防にも新薬

一方、乳幼児では、アブリスボに加えて、これまでシナジスしか選択肢のなかった予防薬にも新薬「ベイフォータス筋注」(ニルセビマブ)が3月に承認されました。

同薬は、アストラゼネカがサノフィと共同開発した抗RSウイルス抗体。アストラゼネカ独自の半減期延長技術を使った長時間作用抗体で、1回投与すれば1シーズン通じて効果が持続します。シナジスはシーズン中に毎月投与する必要がありました。

シナジスは重症化リスクの高い乳幼児が対象ですが、ベイフォータスはすべての乳幼児を対象とした適応を持ちます。東京都で2018年に行われた調査によると、RSウイルス感染症で入院した3歳未満の患者900人のうち、シナジスを投与していた患者は6人で、ほとんどは同薬の適応外の子どもだったと報告されています。健康な乳幼児も重症化する可能性はあり、ベイフォータスや母子免疫ワクチンとしてのアブリスボは、こうしたニーズに対応するものとなります。

アブリスボは、流行時期に関わらず免疫を獲得できるメリットがあります。予防薬はRSウイルス感染の流行初期に投与する必要がありますが、近年は流行時期が冬から夏、春へと変化しており、地域差も含めるとその予測は難しくなっています。全世界の約7000人の妊婦を対象としたアブリスボの臨床第3相(P3)試験では、妊娠24週から36週に接種することで生後6カ月までに受診を要する下気道疾患が半減。重症な症例に限ると、7~8割ほどのリスク低減効果が明らかになりました。日本人でも同様の効果が得られています。

サノフィは経鼻ワクチンを開発

シナジスも今年3月、早産児や肺、心臓に疾患を抱える乳幼児以外のハイリスクの乳幼児に対象を拡大。新たに対象となったのは▽肺低形成▽気道狭窄▽先天性食道閉鎖症▽先天代謝異常症▽神経筋疾患――などを抱える乳幼児で、医師主導治験によって効果が確認されました。

さらなるワクチンや予防薬、治療薬の開発も進んでいます。ワクチンでは、モデルナがmRNAワクチン「mRNA-1345」を年内に日本で申請する予定。同ワクチンは、安定化融合前Fタンパク質をコードするmRNAを使ったもので、国際共同P3試験では高齢者のRSウイルスによる下気道疾患に対して83.7%の有効性を示しました。

サノフィは経鼻弱毒生ワクチン「SP0125」を開発中。乳幼児を対象としたP1試験が行われています。ベイフォータスの販売を担うサノフィは、同薬で初回の感染の重症化を予防し、ワクチンで2シーズン目以降の発症を抑制することで、切れ目のない予防の実現を目指しています。

予防薬では、MSDが抗RSウイルス抗体「MK-1654」(クレスロビマブ)のP3試験を行っています。投与対象には健康な乳幼児も含まれます。

治療薬としては、ファイザーのRSウイルス融合阻害薬「PF-07923568」(sisunatovir)が開発中。高齢者を対象とする試験が先行していますが、小児でも開発を進めています。多くの開発品がFタンパク質を標的とする一方、塩野義製薬がUBEと開発する抗ウイルス薬候補「S-337395」はウイルス増殖に必要なLタンパク質の機能を阻害する作用を持ち、現在、P1試験が行われています。