便利な物流どう維持する?「2024年問題」解決のヒントは | NHK | ビジネス特集

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4月からトラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用され、輸送力の不足が懸念される「物流の2024年問題」。われわれの暮らしに大きく関わる問題ですが、その一方で、これを機に業界で長年課題となってきた「長時間労働」や「低賃金」を見直そうという動きも出ています。

業界はどう変わっていくのか。そして私たち消費者にできることとは?

林田理沙アナウンサーが取材しました。

(4月27日のサタデーウオッチ9とNHKスペシャルで詳しく放送)

倍率45倍!応募者殺到のワケ

福岡県に本社を置く従業員数69人の運送会社。

全国的にドライバーの人手不足に苦しむ会社が多いなか、この会社の求人には今、応募者が殺到しています。

去年1年間の実績は15人の求人に対して、応募者は688人。

倍率は45倍です。

その人気ぶりを支えるのが、独自のSNS戦略です。

この会社では知名度を上げようと4年前からSNSに力を入れ始めました。

アップされているのは、ドライバーの仕事ぶりを紹介するものだけではありません。

SNS専属スタッフが業務に直接関係ないコント動画なども発信。

中には再生回数が400万回を超えたものもあります。

動画を見た人がどれくらいの割合で求人に応募しているかなども分析し、採用活動を強化しています。

Gライン 荒牧敬雄社長

「会社自体が運送会社らしくない運送会社を目指そうとやっています。SNSで拡散力があがったことで、いま働いている子たちと同じような感性、価値観を持つ方々を選ぶ選考ができています」

即戦力より新戦力

この会社が採用において掲げているのが"即戦力より新戦力"。

運送業界の未経験者を積極的に採用していて、いま会社に所属するドライバーの9割が業界未経験者だと言います。

全国の大型トラック運転手の平均年齢が49.9歳の中、SNSの効果もあり、この会社のドライバーの平均年齢は33歳となっています。

ドライバー 元料理人(25歳)

「もともと料理人だったので、ドライバー経験はないです。会社のユニフォームもおしゃれでどこに行っても目立ちますし、若い層がたくさんいるのでチャレンジしてみようかなと思いました」

ドライバー 元自衛隊員(29歳)

「戦闘機の整備をしていました。もともと運転が好きなのと、トラックがかっこいいなという憧れがありました」

荒牧社長は、運送業界の価値観が染みついた経験者ではなく、未経験者をあえて採用することで、生産性が上がっていくと言います。

荒牧社長

「今までの運送業界の商習慣として、長く働いて走れば走るほど稼ぐことがあったと思います。ドライバー経験者は自分1人がやったほうが早いとか、一匹狼みたいな方が多かった。経験者の経験値はありがたいんですけど、我々が目指すべき方向にそこは必要ない。うちの場合は、より短い時間でどれだけ稼げるか。しっかりとゼロから教育をして、連携を高めて情報共有することによって生産性が格段的に上がっていきます」

独自の評価基準で効率アップ

「より短い時間でどれだけ稼げるか」を追求するこの会社。

そのため独自の評価基準を導入しています。

それが"1時間あたりの売上高"です。

評価は個人ではなく営業所単位で行います。

例えば、この2つの営業所。

Aの営業所のほうが売り上げが4万円多いですが、1時間単位の売り上げでみると、労働時間が短いBの営業所のほうが1000円高くなります。

この場合、Bの営業所のほうが給料やボーナスの評価が高くなる仕組みです。

例えば、荷物が予想以上に多い現場には、周辺で働いている余裕のあるドライバーたちが駆け付け、一緒に荷積みや荷下ろしをするなど、短時間で作業を終わらせていきます。

こうしたチームワークが効率よく稼ぐことにつながっていくのです。

荒牧社長

「いろんな法律や価値観が変わっていく時こそ、まさに変革の時。冷静に分析して、早めに力強い一歩を踏み出したいです。業界の常識は非常識だと思いながら業界のイメージが変わっていくよう頑張ります」

未経験活用で効率アップ 専門家はどう見る?

この運送会社の取り組みをどう見ているのか。

物流業界の労働問題に詳しい立教大学の首藤若菜教授に林田理沙アナウンサーが聞きました。

林田アナウンサー

「未経験者を積極的に採用していく動きは、どうご覧になりますか」

首藤教授

「未経験者だからこそ感じる違和感があると思います。ぜひ、これおかしくないですかという声を上げていただきたいです。これが、この業界で長年働いてきたドライバーさんは『この業界ではそれが商慣行で、当たり前なんだ』とか『それが当たり前だ』と感覚が麻痺している可能性はあります」

「一方で、新しくほかの業界から入ってきた人は『これはおかしいのではないか』と感じることがたくさんあるのではないかと思いますので、それが突破口となって業界が変わるきっかけになるといいなと思います」

私たち消費者が考えるべきことは?

トラック輸送は、日本の物流量=年間42億トンの9割を占めていて、まさに暮らしや経済の動脈とも言うべき存在です。

今回の2024年問題について、何の対策も講じなければ輸送能力は14%も不足するという民間シンクタンクの試算もあり、私たち消費者にとっても他人事ではありません。

私たちに何ができるのか。

林田アナウンサー

「私たち消費者は、どうすればいいですか」

首藤教授

「第一に理解していただきたいのは、物流コストの上昇は最終的には消費者に跳ね返ってくるということです。運送会社は2024年問題の対策を取るため今後、物流コストを上げていかなければいけないということで、最初は荷主と値上げの交渉をします」

「しかし、上昇するコストを荷主だけが負担すれば当然荷主は利益が下がりますので、それも持続可能ではなくなってくるわけです。そのコストを荷主側もきちんと商品の価格に転嫁して一般消費者全体で、負担していかなければ、社会自体がもたないと思います」

「まずは、物流コストの上昇を広く社会一般で負担をしていくことを考えてほしいと思っています」

林田アナウンサー

「とは言っても、私たち消費者からすると『送料無料』という言葉は、すごく魅力的です。そういう意識改革もしなければいけないのでしょうか」

首藤教授

「消費者の行動変容も求められています。例えば消費者にとって、ネット通販でなにかものを買ったとき『送料無料』と書かれていたら、運賃がいくらかかっているかわかりませんよね。送料無料と書いてあると、例えば月曜日にはトイレットペーパーを注文して火曜日には食品を注文して水曜日には飲料水を注文するというかたちでネット通販を利用されている方もたくさんいると思います」

「しかし、例えば『送料=300円』といった形で見えるようになると、月火水で注文しようと思っていたものをまとめて月曜日に注文するなど、まとめ買いを促すことに当然なってくると思います。『送料無料』は非常にパワーワードですごくお得感がある言葉ですが、送料は当然有料です。送料を消費者の方に見せるやり方をとれば、意識は一気に変わってくると思います」

「例えばレジ袋は環境問題の観点から『できるだけもらわずに、マイバックを使いましょう』と言われていましたが、無料のときはみんなレジ袋をもらっていたと思います。それが有料化されると、みんなマイバックを使い始めました」

「価格を意識することによって効率化や環境への配慮とか消費者の行動変容につなげることはできますので、そういう意味では送料が見えるのは非常に有効な手段だと思います」

取材を終えて

現役のトラックドライバーの方々や首藤教授のお話を伺うなかで改めて感じたことは、今回の物流の問題は決して運送業者だけのものではなく、私たち誰もが当事者であるということです。

私自身、これまで置き配にするなど、配達するドライバーの負担を減らせればと意識してはいましたが、どこか他人事ではなかったかとみずからを省みました。

私たちの暮らしは、物流、運ぶドライバーがいらっしゃるからこそ成り立っています。

その物流を持続可能なものにできるかどうか、岐路に立たされているいま、私たち消費者を含め社会全体でこの問題を考えていかなければいけないときだと思います。

物流の2024年問題は今後も影響が出てくるとも言われているので、取材を続けキャスターとしても伝えていきたいと思います。

(4月27日「サタデーウオッチ9」と「NHKスペシャル」で放送予定)

サタデーウオッチ9キャスター

林田理沙

2014年入局

長崎局、福岡局を経て東京アナウンス室

社会番組部ディレクター

太田竣介

2014年入局

スポーツ情報番組部やおはよう日本などを経て現所属

「サタデーウオッチ9」はNHKプラスでも配信します

4月27日(土)午後9時から放送予定

5月4日(土)まで見ることができます

↓↓↓

サタデーウオッチ9

「NHKスペシャル」はNHKプラスでも配信します

4月27日(土)午後10時から放送予定

5月4日(土)まで見ることができます

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NHKスペシャル