那覇市がLRT整備計画素案公表 早ければ16年後、超急勾配区間も 専門家「沖縄特有」

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宇都宮市で昨年8月に開業したLRT。那覇市は職員を宇都宮市に派遣するなどして先進事例を参考に検討を進める(大竹直樹撮影)

那覇市は28日、高齢者や障害者が乗降しやすいように車両の床を低くした「LRT」(次世代型路面電車)の整備計画の素案を公表した。市中心部を東西に貫くルートと南北に走るルート計約11キロを整備。複線で整備する本線は6~15分間隔、単線の支線は20~30分間隔の運行を想定している。5月にパブリックコメント(意見公募)を実施し、令和8年度末までに整備計画の策定を目指す。早ければ22年度にも、戦後、車社会が進んだ沖縄の県都に待望の鉄軌道が誕生する可能性がある。

3路線…建設費480億円

LRT整備計画素案を公表する那覇市の知念覚市長=28日午後、同市(大竹直樹撮影)

「誰もが移動しやすい街をつくるため、LRT導入に向けた取り組みを始めている」。那覇市の知念覚市長は28日の記者会見でこう語った。LRTという新たな公共交通の仕組みでこれまでの自動車依存を見直し、「さらに住みよい街へと発展させていきたい」(知念市長)考えだ。

市の素案によると、導入が検討されているのは、県庁北口-県立南部医療センター付近の東西ルート本線(約5キロ)と県庁北口-若狭海浜公園付近の支線(約1キロ)、真玉橋付近-新都心地区の南北ルート(約5キロ)の計3路線。東西ルートから先行して整備する。

那覇市が導入を検討するLRTのルートイメージ。市中心部を東西に貫くルートと南北に走るルートがある(那覇市の資料から)

市はLRTを「基幹的公共交通」と位置づけ、那覇空港にアクセスする「沖縄都市モノレール」(愛称・ゆいレール)や各地に向かうバス路線と接続させる計画だ。

4車線(片側2車線)の道路のうち中央2車線を軌道に置き換えて複線を整備し、超低床の車両が一般の車と走る併用軌道を走行。東西ルートの支線は単線とする。左右のレールの間隔は新幹線と同じ幅の「標準軌」を予定している。

概算の建設費は3路線で計約480億円と試算されており、このうち約270億円は国費を充てる想定だ。「B/C(ビー・バイ・シー)」と呼ばれる費用便益分析の結果は事業化の目安となる1・0を上回ったとしている。

100パーミルの〝超急勾配〟も

市によると、導入ルートには最大傾斜度が1千メートル走行して100メートル登る100パーミル(千分率)の区間も存在するという。箱根登山鉄道の80パーミルや日本唯一の「アプト式鉄道」で知られる大井川鉄道井川線の90パーミルを上回る〝超急勾配〟となる。

昨年8月には全国で初めて全線新設となるLRTが宇都宮市-栃木県芳賀(はが)町間で開業。那覇市は職員を宇都宮市に派遣するなどして先進事例を参考に検討を進める。

鉄道ジャーナリストで都市交通史研究家の枝久保達也氏は那覇市のLRT計画について、「既存のモノレール(ゆいレール)を基軸にLRTが補完する路線網は沖縄特有で、この計画が成功すればLRTの可能性がさらに広がる」と期待する。

ただ、宇都宮市の例では建設費が当初の計画から増加したといい、枝久保氏は「政策決定にあたっては丁寧に市民に説明し、民意を仰ぐ必要がある」と指摘する。

知念市長は「那覇市は今後、急激に超高齢化していく。鉄軌道があれば(車中心の)生活様式が変わってくるということはモノレール(ゆいレール)で実証済みだと思う」と述べた。

人口減少や超高齢社会が進展し、コンパクトな街づくりの実現を掲げる自治体は少なくない。

その先進例が富山市だ。平成18年に全国初のLRTを導入した富山市では、利用者が減っていたJR富山港線の線路を無償で譲り受けて開業。富山港線時代より平日は約2倍、休日は約3倍に利用者が増えるという目に見える実績をあげている。

沖縄本島では戦前、軌間762ミリの軽便鉄道が走っていた。LRTなら慢性化する渋滞の影響を受けず、定時運行を確保できるが、整備の狙いは渋滞緩和だけではない。

車が運転できない人も生活できる公共交通インフラとしてLRTを導入し、誰もが住みやすい街づくりをいかに進めていくのか。

市は今後、市民の意見を反映させたうえで関係機関との協議や合意形成を図っていくとしているが、LRT導入を目指す知念市長の真価が問われるのはこれからだ。(大竹直樹)